ジェットストリームプライム 回転繰り出し式「三菱鉛筆」

 視力の著しい低下から遠近両用メガネを使わざるを得なくなるに至り、「おじさん」になることへの抵抗をついに止めた。その私の心の内なる堤防の決壊は、身に着ける物への価値観を変えてしまった。ジーンズを捨てスラックスを履き、スニーカーを捨てローファーを履き、リカバリーサンダルを捨てダンヒル(ニシベケミカル社製サンダル)を履いた。もしかしたら、私の潜在意識は「おじさん」になることを望んでいたのかもしれなかった。 
 そんな土石流のような流れの中で、業務用のボールペンについてもそれに相応しいものに改革しようと当製品を購入した。普及版を何十本も使用してきた書き味はそのままに、重量感と高級感に、束の間満足した。直後に、別メーカーの高級ラインを知り購入した。握りやすさ・装飾性・ギミック性、全てにおいて、当商品より勝っており(若干の価格差がある)、急にみすぼらしくなりデスクの2軍ペンホルダーにしばし放置していた。

 休日一人仕事をしながら、ふと、それが目に入った。遠近両用をかけていたからかもしれない。よく見ると、他の高級ペンと違って、ペンクリップの下部にロゴがない。一般的に相手側に向ける部分には、一切の文字・装飾がない。顧客の前で使用するのにどちらが適切なのか、答えは(私にとっての書き味がほぼ同等だったため)明白だった。些末なことだが、その観点に気が付くと急に、没個性的ともいえる当製品の冷徹な印象の全てが、逆に輝いて見える。当製品をブリーフケースに入れなおした。
 使い分けができるのが、「おじさん」なのだ。私はきちんと「おじさん」になれるのだろうか? そもそも、きちんと「子供」であり「若者」であれたのだろうか?
 ただ、一切は過ぎて行く。
 自分はことし、四十四になる。白髪がめっきりふえたので、たいていの人から、五十以上に見られる。